魔法使いの告白



『きゃ〜〜!!僕の可愛い心臓が……!!!!』

 そう心の中で叫んで、ハウルは床に倒れ意識を失ってしまいました。




「好きだよ」

 僕は心を作っていた。

「愛してる」

 偽物の言葉で偽物の心を作っていた。

「僕には君しかいないんだ」

 ぽっかりと空いてしまった場所を、埋めてくれる人を捜すため、僕の手放した心を見つけてくれる人を捜すため。

「だから君も僕を好きだと言ってくれるよね?」

 そんな僕だから、君は最低だと言うのかもしれないね。




 初めて会ったのはお祭りの後だったね。

 祭りで見つけた可愛い女の子に逃げられて、数日ふてくされていたときだった。今でも覚えているのはね、あの時の女の子、灰色のネズミのような可愛い可愛い女の子に、逃げられたことが、本当に本当にショックだったからなんだ。

 ろくに話もしていないのに、僕の名前だって知らないのに、声をかける前から構えた感じで、声をかけたら飛び上がるほど驚いていた。

 ろくに手も出さずに逃がしてしまった後ろ姿を見て、もしかしたら魔法使いハウルに気をつけているのかもしれないと思ったら、自分で広めさせたくせに、すごく恨めしくなったんだ。

 それでいじけていた僕の前に現れたおばあちゃんの君は、なんだかとても不思議な印象だったんだよ?だって僕が興味あるのは若い綺麗な女の子で、それ以外の人なんてなかなか覚えることがないのに、どうしてか君を見たときに、どこかであったことがあるような、そんな感じがしたんだ。

 どう見ても90歳くらいのおばあちゃんに、なんだか引っかかったなんて。おかしいだろ?おもわず逆算してしまったよ。

 すぐに何かの呪いがかかってるってわかったけど、僕には心当たりが多すぎて、誰かなんて見当もつかない。呪いだってすごくややこしくて強力で、後でゆっくりといていけばいいと思ったんだ。

 君の正体だって、一緒に暮らしていけばそのうちわかると思ったから。それなのに君ときたら、掃除好きの説教好き、おまけに怖いもの知らずときたもんだ。

 まるで生まれたときからおばあちゃんをやっているかのように、おばあちゃん職が板についていて、とても元の姿が僕が手を出してきた娘さん一人かもしれないなんて、思えなくなってきた。

 なによりも君ったら、最初僕のことを好きにさえもならなかったんだ。僕は自分の知らないうちに、おばあちゃんに手を出したのかと、本気で心配になったんだ。

 僕は28歳で、いくら何でも計算が合わないからね。まだまだ疑う種はいっぱいあったんだよ?もし君の正体が年頃の少女だったとしたら、幾らなんでもあんな洋服、好んで着るわけがない。灰色でさえなくて、それでもまぁ、おばあちゃんにはぴったりだけど、中身がお年頃なら、少しは嫌な顔するはずだもの。

 なのに君は嫌がりもせず、寧ろその洋服が気に言っているとでもいいたそうな顔。僕が癇癪を起こした時だって、『癇癪で死んだ人はいない』って、冷たい一言。ほとんど素っ裸の僕を気にするそぶりすら見せなかった。

 癇癪を起こしている頭の角で、鮮やかだなってちょっぴり感心してしまった。そうそう、君はお裁縫も得意だったね。気に入らないことがあるといつも黙って洋服をばらばらにしていたものね。そしてそれをまたつなぎ合わせて……。

 その頃には僕は君がレティー・ハッターのお姉さん、ソフィー・ハッターだっていうことを突き止めていたんだよ?その頃から僕はもう、君に夢中だったのかもしれないね。

 来る日も来る日もレティーに会いにいっては、おばあちゃんの顔しか知らない君の話を聞いて、何とか君に相手をしてもらおうと思っていたんだ。

 本当の君の姿を知りたくて、一生懸命君の呪いを解こうと、カルシファーも働かせて頑張ったけれど、結局君を戻すことは出来なかった。

 それでも君が少しでも楽になるようにと、癒しの呪文をかけていたけれど、君は少しも気がついていなくて……。そのことを知った君は、癇癪を起こして僕と口も聞こうとしなかった。

 ねぇソフィー、あの時僕がどんなに寂しい思いをしていたか、君にはわかるかい?なくしてしまった心の部分が、シクシクと痛むんだよ。

 僕が風邪を引いて甘えていた時も、君はなんだかんだ、きちんと僕の面倒を見てくれたものね。だんだん一緒にすごしていくうちに、君が僕のことを好きになってくれたのかなと思っていたんだよ。

 なんだかんだ言って厳しい君が、僕が甘えればぶつぶついいながらも一生懸命面倒を見てくれたから。

 でも君は、最初は自分の体よりも妹のことを心配して、自分が老体であることも忘れて七リーグ靴を履いて僕を追いかけて、次にマイケルの呪文をとく助けをしてまたしても七リーグ靴で、今度は流れ星を追っかけるなんてことをして、君の体と行動を心配した僕に文句をいうんだもの。

 全く僕を意識している様子がないじゃない。

 必死にほかの女の人を追いかけて見せて、関心を引こうとしたけれど、君はぶつぶつ小言を言うばかり。まるで嫉妬してくれる様子すらない。

 そりゃ、僕のために王様に会いに行ってくれたり、ペンステモン先生に会いに行ってくれたりもしたけれど、王様には僕の悪口しか言っていない。すこ〜しも、これっぽっちも、僕を褒める言葉が出てこない!!!惚気ようっていう気配すらない!!!!!


〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・
 ソフィー、王様との謁見。

『うちのハウエルはそれはそれは、賢くて美しくて、眉目秀麗とか、容姿端麗、頭脳明晰といった言葉が合う、超絶美形の天才魔法使いではあります。』

 頷く王様。

『それだから余もハウエル殿に依頼したのだ』

 王様の言葉に目を潤ませ泣き崩れるソフィー。

『王様が是非にと弟殿下探しに狩り出したいと仰るのはよく理解できますわ。ですが見ての通り、母親の私はもう老い先の長くない身でございます。その上、荒地の魔女に呪いをかけられ、ハウエル自身も命を狙われる身。私の目の黒いうちは、何とか二人でのんびり過ごしたいと話していたところでした。』

 荒地の魔女という言葉に些か怯む王様。そしてその隙に畳み掛けるように喋るソフィー。

『老体の母に、冥土の土産としてせめて、せめて美しくてかわいい我が子との日々をプレゼントしておくれと、そう頼み、母思いのあの子は何とか私の我侭を、最後の我侭を聞き入れてくれたのです。それなのに、日の当たるベランダであの子は私の肩を揉みながら言うのです。

「母さん、王様から……殿下を探すように仰せつかったんだ」
「ハウエル……」
「荒地の魔女の呪いも動き出している。今回は本当に危ないかもしれない。母さんにも……色々迷惑かけるかもしれない」
「ハウエル……そんなこといいのよ、母さんの事は気にしなくていいのよ」
「母さんのお願い、聞いてあげられないかもしれない。僕、今まで母さんに育ててもらって…女の子のことでもいっぱい迷惑かけて……その他でも沢山沢山迷惑かけて……親孝行…何一つできなかった……でもごめん母さん。王様の御命令なんだ」
 ハウルの手をとり、振り向くソフィー。
「ハウエル…」
「王様の御命令には……僕は逆らえないんだよ。ごめん、ごめんね…母さん」
 俯くハウル。その瞳には涙が!!!!(ダダ〜〜〜ン!!!)
「子供のとき…母さんに嫌いだなんていってごめんなさい。あれ…嘘だからね…母さんの事、母さんの事……大好きだからね!!!世界で一番母さんが大好きだよ!!!!」
「ハウエル!!!!」
 抱き合う二人。ああ麗しき親子の愛。』

 涙ぐむ王様。

『王様!!!私からハウエルを!!!たった一人の息子をお取りになられる気ですか!!!』

 詰め寄るソフィーに王様たじたじ。そこに逆光を背負いつつハウル登場!!!謁見の間の扉を両手で開く。走ってきたのか、荒い息のままソフィーの元に走り寄る。

『母さん!!だめじゃないか!!王様だって、弟殿下が心配なんだ!!』

 ハウルの方を向くソフィー。

『ハウエル…』
 ソフィーを抱きしめるハウル。
『僕やるよ……決めたんだ…たとえそれのせいで、母さんに二度と会えなくなったとしても……王様のせいだなんて、考えたりしないで…』
『ハウエルぅ……』
 泣き崩れるソフィー、なんだかあほらしくなって来た王様。

『ハウル殿、母御を大切になさるんじゃぞ!』
 何とか格好をつけて退出。

             出演 ハウエル:ハウル
                 ソフィー:ハウル
                 王様 :ハウル

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 となるはずだったのに、いきなり卑怯者呼ばわり。移り気で不注意で我侭でヒステリーって、言うし……ごちゃ混ぜだって……。雨のなか僕のことを…閉め出ししようとするし。

 でも僕はすごく君が好きなんだ。君に恋しちゃってるんだ。気付いちゃったんだよ。今、この瞬間に僕の心臓が戻ったときに。

 伸びた僕の頭の中で君の声が聞こえて、弱弱しいカルシファーの声が聞こえて、僕の中に暖かくて柔らかい物が押し付けられて、僕の中に入り込む。

 僕の中のすべての感情が、一斉に色がつき踊りだす。まるで地面がグニャグニャしているような感覚。全ての記憶に全ての感覚が合わさって、僕の今までの経験に、思い出に、花を添えてくれている。

 僕の全ての感覚は、僕の内面の意識をしっかり整頓しようとしていて大騒ぎで、外からの感覚なんてめちゃくちゃだったから。ただ、痛覚だけは憎らしいほど正常に働いていたけれど。

 心がないときは唯ただいないと落ち着かない感じだった。傍にいるとホッとしていないといないでソワソワいらいら、髪の毛にも身だしなみにも気にならないくらいだった。

 僕に心があれば、こういう状態をなんていうのか、僕のこの感情をなんていうのか、すぐにわかって君に伝えることができたのかもしれない。君に少しでも危ないことさせようなんて考えることもなかったのかもしれない。

「ひどい気分。こりゃ、二日酔いだ!」

 しっかり覚醒させられてみたら、頭は痛いしグラグラするし、まるで二日酔いの気分!!かわいいお嬢さんが僕にすがりつくようにして、必死に説明をする姿が見える。

「こうしちゃいられない。間抜けなソフィーを助けなきゃ」

 ああ、僕も本当に、こういうのを向こうの世界の東の国では「ドクガマワッタ」って言うんだ。「ヤキガマワッタ」だったかな?

 こんなかわいいお嬢さんよりも、シワシワのおばあちゃんの方が好きなんだもの。ソフィーのことしか口から出ないんだもの。出てもそれが悪口っぽいんだもの。これが僕の愛情表現なんていっても、信じてくれない?

「ここにいるわ!」

 叫ぶ少女。

「でも、アンゴリアンもまだいるの!さあ起きて、何とかして。早く!」

 あのね、僕は賢いんだよ。頭がいいんだよ!!君の言った 言葉も解るし、それが意味することもようくわかっているつもりさ。それなのにあんたは、再会を喜び合う暇も与えずに、僕を早速こき使おうって言うんだから。

 初めて会ったのは、お祭りのときだったね。あの時はまるで別人みたいだった。だからきっと、やはり僕らの出会いはお祭りの後だったんだよ。

 今ならよくわかる。僕のところに来たときの君が、本当の君なのさ。そのころから君は、本当の君になれたんだ。どうしてだか解る?僕が君のことが大好きで、君が僕のことを愛しちゃってるからさ。

 ストレートな愛情表現ができない僕。

 でも君を大好きな僕。

 それでも君をこき使い、我侭放題するだろう僕。

 そんな僕を君はなんていうんだろうね?

 君を大好きな僕と、僕を愛しちゃってる君と、「これから末永く」って言うのは、素晴らしい思い付きだと思わない?





 若隠岐さんからの思いがけなくもありがたいいただきものです(^^)。果報者な私。あんまり嬉しかったので、アップの許可をいただきました。幸せは皆で分け合おう!

 原作ハウルなのです。んで、ソフィーにラブラブなのです(>_<)!!んもー、たまらんす。
 見事に原作のシーンをトレースしながらハウルの心情を告白させてくれてます。さすがは若隠岐さん(^^)。

 ハウルのソフィーに惹かれたきっかけが一目惚れだったにしろ、本当に惹かれていったのは、おばあちゃんになったソフィーと暮らし始めてからじゃないのかなあ、だったらいいなあと思ってたので、ありがとう若隠岐さん!心の友!な気持ちでした。
 それと、ハウルの妄想劇中劇が、本編と比較するとめちゃくちゃ笑かします。そうか、ハウルの「こまごまとした説明」ってこういうことか(^^)。

 原作はソフィー視点で語られてるので、ソフィーがハウルを「何考えてるか分からない変なヤツ」と捕えている以上、ハウルの心情は想像するしか無いのです。それはそれでいいのだけど、私のように欲張り人間は、「この時ハウルは本当はどう思ってたんだろう」っていうのが知りたくて知りたくて、ソフィー以上に気になってしようがなかったのです。そこんとこの痒いところに手が届かない感じが見事に解消されて、大満足でした(^^)。

 ホントにありがとうございます〜(^^)。

20050416



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